MR装置の原理と画像を作る方法を解説する。
- NMRについて知りたい方
- MR原理について知りたい方
- T1強調やT2強調などMR画像について知りたい方
- MRシーケンスについて知りたい方
NMR(MR)概要
NMRとは、有機物の分析に使われます。有機物の成分である炭素、酸素、窒素、水素などの分子を、物を壊すことなく構造を調べることができます。
静磁場の中に置いたその有機物にラジオ波を当て(印加し)て、共鳴を起こす現象を利用しています。
医療で使われるMRI装置とは、炭素、酸素、窒素、水素の中から、人体に多くある水素に注目し、その水素原子核とラジオ波の共鳴により、出る信号と位置情報を画像化するものです。(MRIでは、水素原子核をプロトンと呼びます)
MRIの原理について
プロトンは磁石と同じ性質を持っています。このプロトンは自転を繰り返していますが、一方向ではなくいろいろな方向を向いて自転しています(A)。この独楽(こま)のような回転を歳差運動やすりこぎ運動と言います(@下記イラスト)。
これを静磁場の中に入れると多くのプロトンが同じ方向を向いて歳差運動を繰り返します(B)。
全てのプロトンが上を向いているようなイラストになっていますが、実際は上又は下に向きます。上下の差はほんの少しです。
上を向いて歳差運動を繰り返しているプロトンにRFパルス(ラジオ波)を印加するとプロトンはエネルギーを得ながら90度倒れます(C)。
(RFパルスを掛け続けると180度にプロトンを倒すことができます)(この90度倒すRFパルスを90度パルスと呼んでいます)その後、時間とともに、信号を出して平衡状態に戻ります(D)。
この独楽の歳差運動を外から眺めると、解りにくいため、回っている独楽の上に乗ったと考えると、解りやすくなります。
乗っている人物Bから独楽中心部を見ると独楽が止まっているように見えます。
(これ以降は歳差運動を除外した状態で説明します。また歳差運動をしているプロトンを磁化ベクトルと言い換えて説明します)
90度バルスを印加することで、まっすぐ立っていた磁化ベクトルは90度倒されます。全ての磁化ベクトルは横に倒され、縦磁化は無くなり全て横磁化に変わります。
少し時間がたつと青①、赤①の状態となります。時間経過するごとに横磁化は減り縦磁化が増加していきます。(②→③の状態となる)
磁場の不均一などが原因で倒した磁化ベクトルは短時間で元に戻ってしまいます。この現象を自由誘導減衰(FID)と言います。
自由誘導信号は短時間で減衰してしまうので、そのため減ってしまう前に180度パルスを印加して再収束させ多くの信号を得ようとする手法をスピンエコー法と言います。
RFパルスを印加して磁化ベクトルを倒すわけですが、90度倒すものを90度パルス、180度倒すものを、180度パルスと名付けています。印加パルスは、同じもので、印加する時間の長さが違います。
パルスの周波数は、原子と静磁場によって決まりますが、ラーモア周波数と同じ周波数のパルスを印加します。
パルスを印加するとは、磁化ベクトルにエネルギーを与え、励起することを言います。その後、そのエネルギーを放出しながら元の安定状態にもどります。
ラーモア周波数とは、磁場の強さと磁気回転比(原子の特有の定数)を掛け合わせたものです。
水素原子核(プロトン)の磁気回転比は4257ヘルツ/ガウスであり、1テスラ装置では、42.57Mヘルツ、1.5テスラ装置では、63.855メガヘルツです。
縦(T1)緩和と横(T2*)緩和について
緩和とは「元の状態に戻る」や「制限を緩める」という意味で、90度パルスを印加する前の平衡状態へもどることを意味します。
縦緩和とは90度パルスの印加によって倒された磁化ベクトルが元の状態に戻って行く過程のことを言います。
倒された磁化ベクトルは時間を追うごとに、赤①赤②赤③と元の状態に戻っていくこれが縦(T1)緩和です。(図では、人物Bが磁化ベクトルを見ている状態です)
これに対して横緩和とは、前述の自由誘導減衰のことを言い横磁化は時間とともに減っていき、短い時間でゼロになります。(人物A側から横緩和を観察した状態です。)これを横T2*緩和と言います。(T2スターと読みます)
再収束の方法について
再収束に関しては、横磁化ベクトルについて考えます。90度パルス印加直後から、磁場の不均一により直ぐに拡散していきます(図2)。
90度倒された磁化ベクトルは倒された瞬間から直ぐ図のように左右に広がって行きます(黄色矢印)。
早く広がるものとゆっくり広がるものがあります。(濃い青色は早い拡散)(薄い水色は遅い拡散)
ここで、180パルスを赤線方向に対して印加するとします。そうすると赤線を軸に反対側へ磁化ベクトルが倒れ、ゆっくり広がっていた磁化ベクトルが早く広がる磁化ベクトルを追い越した位置になります(図3)。
全ての磁化ベクトルの位置が反対となり、その後時間と共に早く広がるベクトルとゆっくり広がるベクトルが、同時に収束します(緑色矢印)。
これで拡散した磁化ベクトルが再収束します。180度パルスを印加することで再収束して大きな信号を得ることが出来ます。これがスピンエコー法の原理です。
画像情報を得る方法
このスピンエコー法を利用して画像を作るわけですが、画像作成には、縦と横(X軸とY軸)の位置情報が必要です。
256×256マトリックスの場合、X軸の256マトリックス方向に傾斜磁場が掛けられ、もう一つのY方向にも傾斜磁場が掛けられますが、同時に掛けると位置情報が混乱するため、Y軸方向には256回に分けて磁場を掛ける必要があります。(エンコードとは、信号を規則に基づいて符号化する事)
それを周波数エンコードと位相エンコードと言います。周波数エンコード側は一度に傾斜磁場を掛け、位相エンコード側は256回に分けて傾斜磁場を掛けます。
これによって256×256(66536コのボックス)の画像情報を得ることが出来ます。512X512の鮮明な画像を得ようとする場合は、位相エンコード側に512回パルスを掛ける必要があります。
スピンエコー法について
自由誘導減衰の信号では、90度パルスを印加して信号を得ても信号は弱く、組織の信号差も付けられないため、緩和の始まった磁化ベクトルを再収束させて強い信号を得る必要があります。これがスピンエコー法です。
これによって強いT2信号やT1信号が得られます。180度パルスを印加し任意の時間後、信号を受信して小さな横磁化ベクトルがなくなるまで待ちます。
その後、平衡状態となった縦磁化ベクトルにまた90度パルスと180度パルスを印加し、信号を得ます。これを繰り返します。
1回の90度パルスと180度パルスで得られる情報は、前述で述べたように256分の1の画像情報だけです。
全ての情報を得るにはこれを256回繰り返す必要があります。TRが3,000msec、マトリックス数256の場合1画像を作るために12.8分(3000㎳×256回)掛かります。
実際病院の頭部(脳)検査では、T1強調画像、T2強調画像、フレアー画像などいろいろな画像を撮像する必要がありますが、スピンエコー法を使用して全ての検査を終えるには何時間も必要となってしまいます。
そこで考えられたのが、高速スピンエコー法です。これをファーストスピンエコー法やターボスピンエコー法と言います。呼び名は装置メーカーによって違います。
今回この記事では、私が以前習ったファーストスピンエコー法(FSE法)を採用して記載します。
ファーストスピンエコー法について
前述のスピンエコー法(SE法)の180度パルス後、信号を受信して、直後にもう一度180度パルスを印加して再収束させます。
この180度パルスを繰り返して信号を素早く得る手法が、ファーストスピンエコー法と言いFSE、Fast spin echoと書きます。
計算上では、位相エンコード数が256であれば256回180度パルスを掛ければ最短で画像をれられますが、256回も繰り返すと信号自体が弱くなってしまいますが何よりもスピンエコーと比較するとT2強調の強い画像となってしまいます。
ファーストスピンエコー法でスピンエコー法と同じようなT2強調画像を得ようとした場合、数回の180度バルスにとどめなければいけません。
繰返し時間(TR time)について考えるとスピンエコー法では2500㎳程度ですが、高速スピンエコー法では、180度パルスを何回も掛けるため、4000㎳程度のTR時間が必要です。
エコー トレイ レングス(ETL)とは?
ファースト スピンエコー法における180度パルスを印加する回数のことをエコー トレイ レングス(ETL)と言います。
得られる画像はスピン エコー法で得られるT2強調画像より強いT2画像です。(基本的には同じ種類の画像で診断には影響がありません)
実効TEとは?
ファースト スピン エコ—法における実効TEは、全(エコー時間)の中央部にあるエコー時間を実効エコー時間としています。
(Kスペースが用いられるようになりKスペースの埋め方で画像のコントラストを変化させることが出来るため、実効エコー時間の意味が薄れてきています)
加算回数(NEX)とは?
信号が少なく良い画像が得られない(ざらざらした画像の)場合には、信号の量が少ないことを意味しています。そのためには、撮像する過程を繰り返すことが必要です。
この繰り返す回数を加算回数と言い、加算回数を2回に増やすと検査時間は2倍になりますが信号強度(SNR:信号とノイズの比率)は1.4倍しか増加しません。加算回数の平方根に比例して信号強度が上がります。
撮像を短縮するスワッピング法
画像を短時間で得ようとする場合、スワッピングと言う方法があります。
撮像をする画像が長方形(縦長、横長)の場合、位相エンコードのマトリックスを短いほうにすることです。
256×512マトリックスを考えた場合TR3000㎳、周波数エンコード256、位相エンコード512では、撮像に25.6分掛かりますが周波数エンコードと位相エンコードを入れ替えることで12.8分に抑えられます。
256×512画像と512×256画像は画像の鮮鋭度は同じですが検査時間は半分になります。
上記とは別の話ですが、マトリックスを増やせば鮮鋭度は上がりますが、良いことばかりではなく、信号強度(量)は極端に弱く(少なく)なりますので、画像の鮮鋭度と信号強度を考えて条件を決めることが重要です。
TR(繰返し時間)とTE(エコー時間)とT1強調像・T2強調像の関係
MR撮像方法では、180度パルスを使用して再収束させエコーを得る方法と傾斜磁場を制御してエコーを得る方法があります。前者をスピンエコー系と言い、後者をグラディエント エコー系と言います。グラディエント エコー法とは?
グラディエント エコー系の説明を行いますが、その前にスピンエコー系では、どの様な画像が得られるのでしょうか?これを説明します。
TRとは繰り返し時間と言います。TEはエコー時間と言います。T1強調画像はTRが500㎳、TEは20㎳程度です。
撮像枚数を多くするためには、TRを長くする必要がありますが、TRを長くすると横磁化の画像情報が入ってくるためあまり長くしないほうがいいです。
T2強調画像では、TE時間を短くすると縦磁化の画像情報が入ってくるため問題があります。
TR時間もTE時間も変化させることにより画像も変わってしまいますがTE時間を変えることはTR時間を変えるよりリスクが大きくなりますので気を付けてください。
(T2強調画像においてTE時間を短くすることは、プロトン密度像に近づくことを意味しています)
T2強調画像では、TRが2000~4000㎳、TEは80~120㎳程度です。従来スピンエコー法では、TRが2500㎳程度ですが、ETLを多くするファーストスピンエコー法では、TRが4000㎳以上になることもあります。よって、より強いT2強調画像になります。
TRをそのままでTEを短くするとプロトン密度像になりますが、TEをそのままに、TRを短くするとコントラストの付かない画像となり、画像診断では使えない画像になります。よってこのような検査は存在しません。
頭部検査において脳出血や血腫など血液が固まる度合いで、出血の表情が変わります。
先ず出血直後のオキソヘモグロビン(超急性期)は、T1でやや低信号、T2で高信号を示します。デオキシヘモグロビン(急性期)は、T1でやや低信号、T2で低信号となります。
メトヘモグロビン(赤血球内:亜急性期)はT1でやや高信号、T2は低信号、メトヘモグロビン(赤血球外:亜急性期)ではT1、T2ともに高信号、ヘモジデリン(慢性期)ではT1、T2ともに低信号を示します。
この時間的経過と血腫の信号変化により発症日時の特定がある程度可能となります。
血腫ではありませんが、水はT1で低信号、T2で高信号、脂肪はT1とT2共に高信号となります。
水と脂肪の信号強度とT1,T2の関係が画像診断やMRI検査を理解するにあたって重要となります。