放射線・MR

新たなアクチニウム-225の製造法を日立etcが開発。アクチニウムは放射線内用療法RIです。

日立、東北大学 、京都大学の3施設は放射線を利用したがん治療法の一つであるアルファ線内用療法に必要なアクチニウム-225(以下、アクチニウム)を、高効率で高品質に製造できる技術を世界で初めて確立した。大変素晴らしい画期的な方法で、アクチニウム治療を加速させる朗報です。

従来のアクチニウム製造の問題点

現在行われているアクチニウムの製造方法は、トリウム-229(以下、トリウム)の核反応を利用したもので、利用できる量に限りが有ります。

トリウムはウラン-233(以下、ウラン)から壊変したものを利用するのだが、ウランは核燃料物質のため取り扱いが厳しく、現在供給できる量は年間68GB程度と限られている。

そのために、全世界で必要とする量には全く足りていない。アルファ線治療用放射性同位元素として有効であると考えられているが、使える量が限られているため、有効性を示す研究や成果の報告が少ないのが現状である。

今回の新たな製造方法は多くの研究者に朗報であり、多くの臨床試験による有効性が証明されれば患者さんにとっても大きな希望となる。 

アクチニウムの製造方法

今回3施設が発表した製造方法は、電子線形加速器で加速した電子をターゲットに当て、得られた制動放射線をラジウム-226に当てて原子核反応を起こしラジウム-225を作り出す。ラジウム-225の半減期は14. 9日でベータ崩壊してアクチニウム-225を精製する。

Ra-226(x,n)Ra-225→Ac-225

この製造方法を使えば1日照射を続ければ、60GBqのアクチニウム-225が精製できるとしている。アクチニウム-225は半減期が10日でデリバリーにも適した放射性物質である。また、安定な物質になるまでに4回アルファ壊変を繰り返す優れた放射性物質です。

放射線を利用した治療方法とは?

以前から行われた放射線治療には、体外からがん細胞に放射線を照射する放射線外部照射と放射線源を体内に挿入して内側から治療する密封小線源照射がある。

これらの放射線治療は、原発巣や固形がんに対して効力を発揮したが、他の臓器に広がった転移性のがんや放射線に感受性の高い骨髄並びに骨髄近くのがんは苦手としていた。

その苦手を解消する方法として、体内に放射性物質を投与して体の中からがん細胞に照射する内用療法が行われるようになった。

放射線内用療法とは?

体内に広まった転移性のがんに集まる薬剤に放射性物質をくっ付け体内に投与して、がん組織内で放射線照射を行うものだ。

現在行われている有痛性の骨転移の疼痛緩和のための放射線内用治療には ストロンチウム-89(塩化ストロンチウム)商品名:メタストロンやラジウム-223(塩化ラジウム)商品名:ゾーフィゴがある。

メタストロンはべータ線を利用した治療であり、ゾーフィゴはアルファ線を利用した治療方法である。

ホウ素中性子捕捉療法とは?

テレビ朝日木曜夜9時放送ドラマ『ドクターX』8話の中で城之内 博美(内田 有紀)さんの高校時代の同級生、八神さつき(瀬戸朝香)さんが放射線治療を受けていましたね。

この治療法がホウ素中性子捕捉療法です。一例ですが、脳腫瘍の患者さんを治療すると仮定してください。脳腫瘍に集まりやすいホウ素化合物をあらかじめ投与しておきます。

脳腫瘍にホウ素が集まった段階で、熱中性子線を腫瘍部分に照射すると、核反応により発生したアルファ線とリチウム-7粒子が腫瘍細胞を死滅させます。

この治療方法は、正常細胞にダメージを与えることなく、腫瘍細胞だけにダメージを与えます。(ホウ素は腫瘍細胞のみに取り込まれるため正常細胞には影響がない)

アクチニウムを利用した放射線内用療法

今回注目されているアクチニウム治療は、アルファ線を利用していることが特徴で、体の中からがん細胞を死滅させる放射線内用療法です。

アルファ線を利用することで放射線外部照射や以前のベータ内用療法のように副作用である正常細胞への被ばくを少なくできる。

アルファ線は重い放射線(ヘリウムの原子核)で、細胞内を直進してがんを死滅させる。また、飛ぶ距離も細胞数個程度と短いため常細胞を傷つけることが少ない

この素晴らしいアクチニウムを用いた放射線内用療法だが、前にも記述したが、製造方法に規制が多く全世界で使用する量を確保することが出来なかった。

アクチニウムを利用した放射線内用療法の利点と問題点

アクチニウムを体内へ投与した場合、アクチニウムはネプツニュウム系列で崩壊をくり返して安定元素になる。アクチニウムの場合221フランシウム→217アスタチン→213ビスマス→209ビスマスとアルファ線治療を続け最後に安定したビスマスになる。

4種類の放射体(核種)を利用して放射線治療を行うことは利点であるが、放射体(核種)の変化により病巣から離れ正常細胞を傷つける場合がある。

この問題点に対してもその正常細胞を傷つけないような工夫が考えられている。

現在はまだ研究段階であるが、多くのアクチニウムが使用できる環境が整えば、多くの研究者によって問題点を洗い出し解決してくれる基礎が出来たと言える。

最後に

日立など3社が製造方法を確立したアクチニウム製造は、多くの科学者や研究者には朗報で患者さんには希望を与えた。

そんなアクチニウム治療にも問題が残っているが、その問題も徐々に解消されている。

ABOUT ME
柿田 彦
診療放射線技師として医療現場で培った技術と第1種放射線取扱主任者として得た知識をいかして皆さんに還元したい。また、 第ニの人生を満喫しながら、おっさんブロガーとして頑張っています。これからは『人生楽しく』をモットーに、wordpressの楽しさと使い方を初心者にお伝えしたいと考えています。