放射線の単位について説明します。
医療で使用される放射線は原子力発電や原爆などの放射線と同じではありません。医療ではエックス線とガンマ線が主です。線量もすごく少ない線量で検査しています。
ガンマ線は、半減期が短く、体内からすぐ排泄される核種を使用しています。
人体への影響を少なくするため医療従事者やメーカーにより被ばくを管理しています。
ヒバクとは、日本語で、【被爆、被曝、被ばく】の3種類を使います。
最初の被爆は、原爆の被爆です。2番目の被曝の曝はさらされると言うことから被曝を意図としていないため事故による被曝時に使います。
福島原発事故以降、放射線に対する意識が高くなっています。そこで、よく耳にするベクレル(Bq)やグレイ(Gy)、シーベルト(Sv)とその他、放射線に関係する単位について説明します。
ベクレル(Bq)やグレイ(Gy)、シーベルト(Sv)は、国際単位と言い、現在、世界中で広く使われている単位です。
フランス語でSystème International d'unitésで略称はSIと書きます。SI単位系とも言います。メートル(m)、キログラム(kg)、秒(s)はSI基本単位です。
放射能、ベクレル(Bq)について
放射能:単位は、ベクレル(Bq)です。放射能は、放射性物質が放射線を出す力のことを言います。放射線量や放射線被ばくを表すものではありません。
放射線を出す素の能力を言います。良く例えられるのが、電灯です。
電灯のスイッチを入れると明るくなりますが、明るさはルクスやカンデラで表し、電灯はワットで表します。
このワットは電灯の能力です。放射性物質の放射線を出す能力が放射能です。
ベクレル(Bq):1ベクレルは、放射性物質が1秒間に1個崩壊することを言います。ある放射性物質が1分間(60秒)に6,000個崩壊したとすると、この物質の放射能は100ベクレルです。
この単位は、ウランの放射能を発見してノーベル賞を授賞したフランスの物理学者のアンリ・ベクレルにちなみ命名されました。
ベクレルは昔から使われていたわけではなく、1975年に制定されました。
以前使用していたのが、キュリー(Ci) と言う単位です。現在は使うことが少ない単位ですが、皆さんご存じのキュリー夫人が名前の由来です。
1キュリー(Ci)は3.7×10の10乗Bq 、ゼロを並べてみると37,000,000,000ベクレルです。同じ放射能の単位ですがこんなに違います。
これじゃ混乱しますよね。この数字は、37,000,000,000Bqを接頭語を付けると37GBqとなります。
下記にSI接頭語を付けたベクレル数を示します。小さい方でナノやピコ、大きい方でギガやテラがあります。
最近ナノミストって聞きますよね。パソコンの容量で、ギガバイトやテラバイトを使います。SI単位系(国際単位系)
SIは、7つの基本単位、2つの補助単位、19の組立単位及び20の接頭語で構成されています。 cranenet.or.jpより引用
ベクレル (Bq) 分量単位 | ||
SI接頭語 | 単位 | 読み方 |
10−1 Bq | dBq | デシベクレル |
10−2 Bq | cBq | センチベクレル |
10−3 Bq | mBq | ミリベクレ |
10−6 Bq | µBq | マイクロベクレル |
10−9 Bq | nBq | ナノベクレル |
10−12 Bq | pBq | ピコベクレル |
101 Bq | daBq | デカベクレル |
102 Bq | hBq | ヘクトベクレル |
103 Bq | kBq | キロベクレル |
106 Bq | MBq | メガベクレル |
109 Bq | GBq | ギガベクレル |
1012 Bq | TBq | テラベクレル |
吸収線量、グレイ(Gy)について
吸収線量:放射線が物質に照射されたとき、物質内で電離や励起が起こり、物質が吸収するエネルギー量のことを言います。
1グレイ(㏉)とは、1Kgの物質が吸収するエネルギーが1ジュール毎 キログラム(J/Kg)のことを言います。以前使用していたラド(rad)も吸収線量の単位です。
SI単位系のグレイが幅広く使われています。1ラド(rad)=0.01グレイ(Gy)です。1radを100倍すると1グレイ(Gy)になります。
1 ジュールとは,地球上で空気抵抗と遠心力をなくした重力加速度の下で、およそ 102.0 グラムの物体を 1 メートル持ち上げる時の仕事に相当します。
ミカドonlineより引用
照射線量クーロン毎キログラム(c/kg)について
エックス線やガンマ線に限定された単位で、エックス線やガンマ線を物体に照射した場合、空気中を通過する時に作られる電気量のことを言います。
エックス線やガンマ線が照射され、『空気1kg中に1クーロンの正、負のイオンを発生させる照射線量を1C/Kgとする。』としています。
私が若いころは、照射線量の単位はレントゲン(R)でしたが、1C/Kg=3876Rと凄い量になります。(クーロンとは、電気量の合計を言い、電流×時間で表されます)
被ばく線量、シーベルト(Sv)について
シーベルトは、放射線が人体に当たった時どのような影響があるかを評価した被ばく線量の単位です。
シーベルトは線量当量、等価線量、実効線量の単位でSI単位系として幅広く使われています。
実効線量、線量当量、等価線量:放射線防護の観点から考えられた線量で、単位はシーベルトSvです。
以前使われていた単位がレム(rem)ですが、100レムは1シーベルトで100倍の違いがあります。
放射線被ばくには、体全体が被ばくする場合と、手足のみや上半身のみなどさまざまであり、体全体に均一化した被ばく量を実効線量と言います。
手足に大きな線量が当たっても実効線量で表すと小さくなります。
例えば、胸部に2mGy当たった場合、計算すると0.884mSvとなります。(ココが放射線被ばくを解りにくくしています。)
線量当量は、臓器・組織に関係なく、吸収線量に放射線荷重係数と組織荷重係数を掛けわせた線量です。
等価線量は、人体の各臓器の被ばく線量を表す線量です。
臓器線量(臓器の吸収線量)に放射線荷重係数を掛け合わせた線量です。
組織荷重係数と放射線荷重係について
組織荷重係数について
臓器荷重係数と組織荷重係数は同じ意味です。放射線に対する人体への影響は、組織や臓器の放射線に対する感受性によって違います。
そこで、臓器・組織ごとに重み付けを行っています。臓器などの組織によって放射線の影響の受けやすさは違っています。
そこで臓器別に受けやすさを数値化したのが、臓器荷重係数です。組織ごとの臓器荷重係数をすべて足すと1.00になります。
組織荷重係数・臓器荷重係数 | ||
組織・臓器 | 1990年 係数 | 2007年 係数 |
骨髄、肺、胃、結腸 | 0.12 | 0.12 |
乳房 | 0.05 | 0.12 |
生殖腺 | 0.2 | 0.08 |
甲状腺、食道、肝臓、膀胱 | 0.05 | 0.04 |
皮膚、骨表面 | 0.01 | 0.01 |
脳、唾液腺 | ― | 0.01 |
上記以外の組織 | 0.05 | 0.12 |
国際放射線防護委員会の1990年勧告(ICRP Publ.60) 2007年勧告(ICRP Publ.103)
組織荷重係数に対する国際防護委員会の勧告は、1990年に出され2007年に修正されています。
1990勧告では、生殖腺の係数は0.20と高く、乳房の係数は0.05と低くなっていますが、2007年勧告では下記のように修正されています。
しかし女性の生殖腺に対する被ばくは、妊娠や出産の観点から注意が必要です。
上記の組織荷重係数を詳しく説明します。(2007年勧告で説明)
組織・臓器の合計数は15種類あります。係数の高い0.12に分類されている組織は、骨髄、肺、胃、結腸、乳房の5種類です。0.12×5=0.6 係数、0.08は生殖腺1種類です。 0.08×1=0.08
次に、係数0.04は、甲状腺、食道、肝臓、膀胱の4種類で、0.04×4=0.16です。係数0.01は皮膚、骨表面、脳、唾液腺の4種類です。0.01×4=0.04 最後に上記以外の組織は一括りで1種類で係数は0.12 0.12×1=0.12です。
これで組織数合計は、15種類、係数合計は0.6+0.08+0.16+0.04+0.12=1.00です。全身を被ばくした場合は上記のように計算すれば被ばく線量が出てきます。
局部に被ばくした場合の被ばく線量時ついて最後に説明します。2007年勧告(ICRP Publ.103)
放射線荷重係数について
放射線荷重係数は、放射線の種類とエネルギーの大きさによって違いますが、放射線検査で使われているエックス線やガンマ線、ベータ線はエネルギーに関係なく一番影響の少ない係数1です。よって吸収線量と被ばく線量(線量当量)は同じです。
放射線荷重係数 | ||
種類 | エネルギー範囲 | 係数 |
エックス線、ガンマ線 | 1 | |
電子 | 1 | |
陽子 | >2MeV | 5 |
中性子線 | >20MeV、<10keV | 5 |
10~100keV、2~20MeV | 10 | |
100keV~2MeV | 20 | |
アルファ線 | 20 |
国際放射線防護委員会の1990年勧告(ICRP Publ.60)
cpm・cpsについて
cpm・cpsは、GM計数管やGMサーべメーターなどの線量計によって計測され放射線の数を指します。
放射線の被ばくや放射線量を表すベクトルやグレイなどとは違い、数値には意味を持ちません。
cpmはc/mと書きます。mはminute(分)の事です。1分間にカウントする数という意味です。
1分間に300カウントと1分間に600カウントでは600カウントが2倍ということは言えますが300や600という数値には意味はありません。
同様にcpsはc/sと書きます。こちらのsはsec(秒)を表します。例えば、原発事故の地表の放射線を比較する場合などで使います。
A地点とB地点の比較やA地点の1週間のカウント比較などに使われます。簡単に正しいカウントが計測できます。
線量計によっては方向依存性があります。方向依存性とは、計測器の受信部の向きによって計測される値が違ってきます。
決められた向きで計測することが大切です。方向依存性の他に方向特性とも言います。
GMサーべメーターを例にとって説明します。受信部の形状が細長い筒状のものが多く、正面から入射した放射線と側面から入射した放射線ではカウント数に違いが出ます。
測定はいつも測定するものに受信部を向けて測定する必要があります。
GM計数管の受信部は筒の先端ですが、先端より側面のほうが感度が良く計測値より多めに表示されますがこれは正しい値ではありません。
(感度が良いと表現しましたが、正しい値ではなく過剰に計数していることを言います)
そのほかエネルギー特性など使用上の注意点がありますので、その点については、『放射線測定装置について』の記事でお知らせします。
https://ryugen.xyz/radiation-survey-meter
被ばく線量計算 例
前述したように実効線量とは、体全体が被ばくしたと考えた場合の被ばく線量のことです。
体の一部が多くの線量を被ばくしても全身に分散して考えると下記のようになります。
全身にガンマ(γ)線が当たった場合と胸部のみに当たった場合と比較してみます。線量は2ミリグレイとします。
今回比較に使用する放射線はガンマ(γ)線であるため、放射線荷重係数は1です。
それによりグレイ(Gy)とシーベルト(Sv)はイコールです。
全身に被ばくしたとしていますので、等価線量とリスク係数を掛け合わせ合算すると、実効線量は2ミリシーベルトとなります。
次に胸部だけを被ばくした場合を考えてみましょう。
胸部に2ミリグレイの放射線を受けたと仮定していますので、肺、乳房、食道は胸部にある臓器と考え、臓器全体が放射線被ばくするため臓器ごとの等価線量は2ミリシーベルトとなります。
それ以外の骨髄や皮膚、骨表面などは体全体に分布しているため胸部にある割合を30%としました。
上記以外の組織として係数0.12を足す必要があります。整理すると100%被ばく組織は肺、乳房、食道:0.12×2+0.04×1=0.28です。
30%の被ばく組織は骨髄、皮膚、骨表面:0.12×1+0.01×2=0.14 、0.14×0.30=0.042 それ以外の組織は0.12です。
胃、結腸、生殖腺、甲状腺、肝臓、膀胱、脳、唾液腺の被ばく線量はゼロです。上記を合計すると0.28+0.042+0.12=0.442です。
被ばく線量が2ミリグレイでしたので、2倍すると0.884ミリシーベルトとなります。実効線量は0.884ミリシーベルトとなります。
よって胸部にのみ2mGy被ばくした場合の実効線量は0.884mSv となります。
上記のような計算方法で被ばく線量を算出します。
全身を被ばくした場合は、被ばくした線量そのものが実効線量となりますが、胸部や腹部、手足などの局所被ばくであれば、上記に当てはめて計算すると部分被ばくよりだいぶ実効線量は少なくなります。
大線量を被ばくした場合、実効線量は少なくなっても、被ばくした組織や臓器のダメージが減るものではありません。
まとめ
放射線の単位と言っても色々あります。放射能の単位、放射線被ばく量の単位、照射線量、吸収線量など多くの種類があります。
現在使用されている吸収線量の単位はグレイ(Gy)ですが、ラド(rad)も吸収線量の単位です。ラドは以前使用していた単位です。
SI単位系のグレイが幅広く使われています。1ラド(rad)=0.01グレイ(Gy)です。1radを100倍すると1グレイ(Gy)になります。
現在使用されている被ばく線量の単位はシーベルト(Sv)ですが、レム(rem)も被ばく線量の単位です。レム(rem)は以前使用されていた単位です。
実効線量、線量当量、等価線量:放射線防護の観点から考えられた線量で、単位はシーベルトSvです。
現在使用されている放射能の単位はベクレル(Bq)ですが、以前はキュリー(Ci)です。
1キュリー(Ci)は3.7×10の10乗ベクレル(Bq) 、ゼロを並べてみると37,000,000,000ベクレル(Bq)です。同じ放射能の単位ですがこんなに違います。