ヒバクとは、日本語で、【被爆、被曝、被ばく】の3種類を使います。
最初の被爆は、原爆の被爆です。2番目の被曝の曝はさらされると言うことから被曝を意図としていないため事故による被曝時に使います。
- 個人被ばく線量計について知りたい方
- 個人被曝線量計の種類について知りたい方
- 個人被ばく線量計の原理について知りたい方
個人被ばく線量測定
我々放射線を生業としている人間(放射線従事者、放射線業務従事者)は法律により一定期間内(6ヵ月、1ヵ年)に受ける放射線被ばくが、線量限度を超えないようにする必要があります。
線量限度には、自分が受けた医療での被ばくは加算しないことになっています。
私自身、放射線業務に就いた昭和50年以来、何年もお世話になった測定器がフイルムバッジです。
その後ガラスバッジを使用するようになりました。ガラスバッジ線量計は蛍光ガラス線量計を使用し、現在は光刺激ルミネッセンス線量計を使用しています。
43年間の被ばく線量が2.4mSvです。
個人は被ばく線量計の装着部位
個人被ばく線量測定では、一定期間内に被ばくする線量を測定します。
装着部位は男性は胸部、女性は腹部、不均等被ばくでは頚部に装着します。
もちろんプロテクター装着しますが、均等被ばく用はプロテクターの内側(胸、腹部)に装着します。
不均等被ばくは用は頚部のプロテクター外に装着します。
末端被ばくの測定は多く被ばくする側の指に装着します。
(被ばく線量測定には均等被ばく線量計を1個装着すれば問題ありませんが、正しい被ばく線量測定には線量計2個又は+リングバッジが必要です)
フィルムバッジについて
フィルムバッジは古くから用いられている測定器です。
安価で耐久性が高く、低線量の測定に適しています。
感光素材である写真乳剤を塗布したフィルムに放射線が当たると黒化することを利用しています。
フィルム前面と後面に数種類のフィルターを付け、線質やエネルギーの判別を有効にしています。
計測できる種類は、エックス線、ガンマ線、ベータ線、中性子線です。
一定期間装着したフイルムバッジをメーカーへお送り、黒化したフィルムと数種類のフィルターを加味した濃度により被ばく線量を求め、求めた結果を送り返してくれます。
ガラスバッジのデメリットとして挙げられるのが、極低線量域と高線量域の測定に不向きな点です。また潜像退行も問題となります。
"潜像退行とは?
ハロゲン化銀を含む乳剤を塗布したフイルムに放射線が当たると乳剤中の原子が電離して銀イオンが生成されます。これが潜像です。
従来これを現像して定着させ写真としますが、線量計として使用する場合ある一定期間使用しますのでその間に潜像が減少していくことがあります。
これを潜像退行と言います。特に高温、多湿により影響を受けやすいと言われます。
ATOMICAより引用
フィルムバッジの低線量域測定は、1ミリシーベルトが限界でそれ以下になるとX(測定不能)と表示されます。
安価で耐久性のあるフィルムバッジですが、使用する銀資源の減少と、現像時の廃液による環境を守る観点から現在は使用していません。
医療で使用しているガラスバッジの測定範囲は1mSv~1Svです。
蛍光ガラス線量計について
蛍光ガラス線量計は、ラジオフォトルミネッセンスという特殊な現象を利用しています。
銀活性リン酸塩ガラス素子に電磁放射線を照射すると電離した電子と正孔が銀イオンにキャッチされAgゼロの蛍光中心となり、一方正孔はリン酸塩にキャッチされ最終的にAg2+の蛍光中心となります。
これに300ナノメータ程度の紫外線を照射すると600ナノメータ近くのオレンジ色の光を出します。
しかも発光量は、照射を受けた放射線のエネルギーに比例するため放射線量の測定が可能となります。
また素子間の感度のバラツキが少なく何度も繰り返して読み取ることも出来ます。
その上素子に蓄積された線量のデータが時間や温度によって消えていくことが少なく、素子に残っていています。
再度使いたい場合は、加熱処理をすることで使用できます。これをアニーリングと言います。
エックス線、ガンマ線、ベータ線の測定ができます。製造メーカーによれば線量計の計測可能な測定範囲は1μ㏜~10㏜です。
蛍光中心とは電磁放射線を受けた原子は、安定した状態から不安定な状態へ移行しますが、素子内の銀イオンやリン酸塩とくっ付くことで安定を保ちます。
励起状態ではあるが安定しているこの状態を蛍光中心と言います。
熱ルミネッセンス線量計について
間接電離放射線(エックス線やガンマ線、中性子線)などで照射された蛍光物質は加熱すると照射線量に比例した光を出します。これを熱ルミネッセンスと言います。
ツリウムを添加した硫酸カルシウム(CaSO4:Tm)やテルビウムを添加したケイ酸かマグネシウム(Mg2SiO4:Tb)に放射線が入射すると自由電子と生孔が生まれ、バンドギャップ内に取り込まれ、そのまま安定した状態で存在します。
しかし結晶の良し悪しで素子の感度にばらつきが若干あるため、読み取り機の校正が必要です。
その後100°C~300°Cで熱せられることにより再結合して光子を発生します。
発生する全発光量はバンドギャップ内に取り込まれている電子、正孔に比例します。
加熱された素子の電子と正孔は消滅するため、再度の読み取りは出来ません。
素子をさらに高温の400°C~500°Cの高温にすると再度線量計として利用できます。これをアニーリングと言います。
熱ルミネッセンス線量計は、最小検出線量が低く最大線量計測が高い線量計で1マイクロシーベルト~100シーベルトの測定ができます。
しかし蛍光ガラス線量計や熱刺激ルミネッセンス線量計より若干フェーディングが起こりやすいと言われています。
製造メーカーによれば、計測可能な測定範囲は1μ㏜~100㏜です。
放射線照射により蓄積された被ばく情報が時間経過や熱により蓄積量が減っていく現象をいいます。
被ばく線量の読み取り値が減っていく現象(フィルムバッジに起こる潜像退行と同じ意味)
バンドギャップとは?
電気の流れを阻止する領域のことを言います。バンドギャップには電子が存在できません。多くの金属にはバンドギャップはありませんが、半導体や絶縁体にはバンドギャップが存在します。
絶縁体にあるバンドギャップは大きいため電子が流れるためには大きなエネルギーや大きな電圧が必要となりますが、半導体内のバンドギャップは小さな熱や電圧を掛けると電気が流れます。株式会社 日立ハイテクHPより引用
光刺激ルミネッセンス線量計について
上記の熱ルミネッセンス線量計と間違えないように今回は光刺激ルミネッセンス線量計です。
光刺激ルミネッセンス(OSLD:Optically Stimulated Luminescence Dosimeter)と呼びます。
蛍光ガラス線量計や熱ルミネッセンス線量計と同じような現象を利用した線量計です。
読み取り方法は蛍光ガラス線量計の紫外線照射に対し光刺激ルミネッセンス線量計は緑色レーザー光照射により読み取ることが出来ます。
使用される素子は、酸化アルミニウムに炭素を添加した素子(Ag2O3:C)が使用されています。
放射線が素子に入射すると励起された電子の一部や正孔が格子欠損や不純物(C)に捕獲されます。
そこに光刺激である光を照射すると少し波長のずれた光を放出する。この光を測定することで線量測定ができます。
この線量計は蛍光ガラス線量計と同様に化学的に安定し熱に対する影響が少なく、フェーディングが小さく抑えられています。
TLD線量計と違い、再読み取りが行えます。素子は光学的なアニーリングにより再度使用ができます。
計測可能な測定範囲:10μ㏜~10㏜
原子や分子が規則的に並んだものが結晶とされているが実際の結晶には部分的に穴が開いたりずれたりしている部分が出来ます。
この不完全な並びのことを格子欠陥と言います。格子欠陥(lattice defect)村上 奈穂PDFより引用
加熱処理を行うことで再度線量計素子として使用できる状態になります。そのための加熱処理のことを言います。
測定器によって加熱処理の温度は違います。光刺激ルミネッセンス線量計の再使用への処理は、強い光を長時間照射することで、光学的アニーリングと呼びます。
半導体式ポケット線量計について
半導体検出部はシリコンやゲルマニウムの高純度結晶を利用します。
電離箱線量計と同様に電離作用を利用していますが、相違点は気体中ではなく固体内での電離作用を利用しています。
測定原理はP型半導体(シリコン-ホウ素)とN型半導体(シリコン‐リン)を接合して間に自由に電流が流れないような空乏層を設け、放射線の流入により電子と正孔の発生して電流が流れます。(P型半導体を陰極、N型半導体を陽極として作られています。)
フェーディングが小さく最低計測線量が1マイクロシーベルトと個人線量計としては優れていますが、エネルギー依存性があり、低エネルギーのエックス線測定については感度が低いため測定には注意が必要です。
近年、半導体検出器を利用したポケット線量計が普及し始めています。
半導体検出器は印加電圧が低く小型でコンパクトな上に、測定中に確認が可能なアラーム機能も有しているものもあります。計測可能な測定範囲は1μSv~1Svです。
被ばく線量の管理
わが国では、一生の被ばくを1Svに抑えることを目安に、ICRP1990年勧告を取り入れた「放射線障害防止に関する法令」(平成13年4月1日施行)で、放射線業務従事者の線量限度を以下のように定めました。
実効線量限度(身体全体が対象)
法令施行から5年ごとに100mSv、4月1日から1年ごとに50mSv、女性は、1、4、7、10月の1日から3ヶ月ごとに5mSv
(ただし、ここでの女性は、妊娠不能と診断された者、妊娠の意志のない旨を使用者等に書面で申し出た者、妊娠中の者を除きます)㋐妊娠中の女性は、本人の申出等により使用者等が妊娠の事実を知ったときから出産までの期間で、内部被ばくについて1mSv
等価線量限度(個別の部位が対象)
目の水晶体は、4月1日から1年ごとに150mS皮膚は、4月1日から1年ごとに500mSv妊娠中である女性の腹部表面は、㋐に規定する期間につき2mSv
ICRP1990年勧告 長瀬ランダウア株式会社HPより引用