医療で用いる放射線について説明します。
現在、放射線と医療は切っても切れないものです。放射線検査無しでは、医療が成り立ちません。
- 医療で使われる放射線について知りたい方
- 放射線検査としてどんな検査があるか知りたい方
- 放射線治療ではどんな放射線が使われるか知りたい方
- 放射線被曝や単位について知りたい方
検査としては一般撮影、エックス線CT検査、透視検査、血管連続撮影、核医学検査などがあります。
治療として放射線治療(外照射、内照射)があります。
一般撮影の低線量から放射線治療の高線量まで、被ばく線量には大きな差があります。
(放射線被ばくとは、放射線に晒されるという意味があります。
よって放射線治療の場合、放射線に晒されるとは意味が違いますが、放射線が当たるという意味で放射線被ばくと言う文言を使用しています)
医療(放射線治療を除く)で用いる放射線は、まず第一に体に影響があってはいけません。しかし体を治すことに利用することから線量限度は設けていません
- エックス線:一般撮影、TV、CT、骨密度etc
- ガンマ線:核医学検査、放射線治療
- 電子線:放射線治療
- ベータ線:核医学検査、放射線治療
- アルファ線:高度放射線治療
- 中性子線:高度放射線治療
中性子線は中性子線を人体に当てて治療するというより2次的に使用する放射線です。
医療で用いる放射線について
エックス線と電子線、中性子線は、放射線発生装置によって作られる放射線です。
アルファ線とベータ線、ガンマ線、中性子線は放射性物質(ラジオアイソトープ)から発生します。
一般撮影やエックス線CT検査、エックス線TV装置、血管連続撮影装置などは、エックス線を用いています。
核医学検査では、ガンマ線やベータ線が用いられます。
電子線やアルファ線、中性子線などは放射線治療で用いられます。
放射線発生装置で発生する放射線の強さや量は、電圧と電流、時間で決まります。
核医学検査は、放射線の核種によって決まります。核種固有の放射線を放出します。
※核医学検査は、RI検査、アイソトープ検査、ラジオアイソトープ検査とも言います。
被ばく線量の低減について
一般撮影やエックス線CT検査、エックス線TV装置、血管連続撮影装置は、診断できる画像を作ることや病巣を見つけることが目的であるため高い電圧を用いる必要はありません。
電圧で言うと高くても150KV程度です。手足の一般撮影では、50KV前後であり、被ばく線量も微々たるもので体への影響はありません。
核医学検査で用いる放射性核種は体内へ入ることから、短い半減期を持った核種で、中性子線やアルファ線を出さない核種を使います。
また、体内へ取り込まれた核種が早めに排出されるものが選ばれています。
これによって被ばく線量の低減を図ります。体内に蓄積される各種は使いません。
子供の核医学検査は、放射線に対する感受性が高いことから注意が必要です。
放射線治療で用いる放射線について
放射線治療には体外から放射線を照射する外照射と体内からの内照射があります。
内照射には、腔内照射、組織内照射、内用療法があります。
現在使用されている外照射装置は、人工的に作られる照射装置が主流で放射性物質を用いた外照射装置は少なくなっています。
放射線外照射で用いられる放射線は、エックス線と電子線が主で、ガンマ線装置もあります。
腔内照射(小線源治療装置)では、ガンマ線を使用します。
腔内照射装置の線源にはエネルギーが強く半減期の長いラジオアイソトープが使用されています。
(腔内照射は、外照射同様に体内に線源を留めて置く治療ではないため、線源のエネルギーは強くて半減期の長いものを使用します。)
特殊な治療としてアルファ線や中性子線を用いたものがあります。
放射線外照射は、強い放射線でがん(悪性新生物)を死滅させるため、正常な組織にも大きなダメージを与えてしまいます。(治療線量の合計は40Gy~60Gy)
それに比べ腔内照射は直接病巣に照射しますので、外照射より正常組織へのダメージは少なくなります。
内照射には、放射性核種を注射または内服での治療があります。甲状腺がん、前立腺がんによる骨転移病巣、悪性リンパ腫などの治療があります。
放射線の単位について
放射線の単位は、グレイとシーベルトを用います。
グレイは吸収線量の単位で、Gyと書きます。物質が放射線のエネルギーをどの位吸収したかを表します。
シーベルトは被ばく線量の単位です。放射線が人体に及ぼす影響を考慮した線量でSvと書きます。
放射線が生物に及ぼす影響は、放射線の種類(放射線荷重係数)と吸収線量そして組織に重み付した係数(組織荷重係数)を加味した線量です。
放射線検査や外照射で使うエックス線、ガンマ線、電子線の放射線荷重係数は1です。
シーベルト(Sv)=吸収線量(Gy)×放射線荷重係数×組織荷重係数
組織の放射線感受性は、組織荷重係数によって重みづけがされています。
実際の医療被ばく量では、ミリシーベルト(mSv)やマイクロシーベルト(μSv)単位です。1シーベルトの1,000分の1と100万分の1です。
[ALARAの原則]/放射線防護の三原則
ALARAの原則]/放射線防護の三原則
- 放射線被ばくは、被ばくによって得られる便益が十分であること。(行為の正当化)
- 放射線被ばくは、経済的、社会的合理的な範囲で可能な限り低く抑えること(防護の最適化)
- 個人が被ばくする線量は委員会が決めた勧告以下にすること。(個人の線量制限)
- 放射線を使用するにあたって「ALARAの原則」と言うものがあります。英語で「As Low Reasonably Achievable」と書きます。訳すと「合理的に達成可能な限り低く」です。
- (放射線利用には合理的に可能な限り低線量被ばくに抑える)というものです。このアララの原則をもとに放射線防護の原則が生まれました。
放射線被ばくは、被ばくによって得られる便益が十分であること。(行為の正当化①)
医療に放射線を使うことについて規制(注意喚起)しているのは、この項目です。
言い方を変えれば、病気発見のための被ばくであるが、人体への被ばくは出来るだけ少なくするようにと唱えています。
残りの2つは、放射線施設の建物の基準(防護の最適化)と国民が被ばくする放射線線量(個人の線量制限)ですが、医療や検診で受ける被ばく量は入っていません。
また職業人の被ばく量は他の規則で規制されています。 ICRPより引用
まとめ(医療で用いる放射線)
エックス線とガンマ線が医療で使用される中心の放射線です。X線は人工的に作られた放射線です。ガンマ線は放射性の核種から発生する放射線です。
エックス線とガンマ線は透過力が強くて、質量を持たないため、人体への悪影響(被ばく)が少ない放射線です。
ガンマ線は、アイソトープ検査で使用され、エックス線は、CT検査やテレビ検査、アンギオ(血管連続撮影)、骨密度検査などで使用されます。
電子線とベータ線は、放射線検査(画像診断)に用いることはありません。放射線による治療(リニアックやRI治療)に用いられます。
アルファ線と中性子線は通常の放射線治療に用いることはありません。特殊な放射線治療で使用されます。大学病院や特殊な施設で行われています。
一例 (脳腫瘍などで使用します。脳腫瘍に集まりやすい薬を注射して脳腫瘍に集まったところで中性子線を照射して、核反応によりアルファ線を発生させて、脳腫瘍を治療します。)
アルファ線は、透過力は弱くて、細胞に与える影響は大きい(アルファ線はヘリウムの原子核)ため、腫瘍にダメージを与え正常細部にはダメージを与えないため有用です。
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