放射線・MR

100mSv以下の低放射線被ばくは、体に悪いの?それとも良いの?

低線量放射線被曝(100mSv以下)には、放射線ホルミシス効果・適応応答ある?ない?

ミーちゃん
ミーちゃん
少ない放射線でも被ばくしないほうがいいんじゃないの?
ゲンちゃん
ゲンちゃん
少ない放射線は有益と言う研究もされているよ。
こんな方にこの記事を読んで頂きたい
  1. 放射線は百害あって一利なしと考えている方
  2. 放射線は線量によって影響が違い体に良いことがあると考えている方
  3. 低線量被ばくであれば、体に影響がないと考えている方
  4. 放射線のことを一から知りたい方

皆さん‼狭心症や心筋梗塞の薬として有名な「ニトロ」をご存知ですか?

胸が苦しいときにベロの下に入れてなめる薬です。ダイナマイトの原料である「ニトログリセリン」と同じ成分です。こんなに危険なものでも微量であれば薬となります。

「トリカブト」をご存じですか?猛毒の植物ですがこれも漢方薬に使われています。

このような薬は他にもありますが、多くの薬が微量で薬、多量で毒です。少し言いすぎでしょうか?栄養となるものでも、とり過ぎれば毒になります。諺では『薬も過ぎれば毒となる』反対に『毒薬変じて薬となる』がありますがこれも解ります。

酒飲みが「酒は百薬の長」と言って飲む口実にしていますが、お医者さんに訪ねると、「少量であれば、お酒も薬ですよ。過ぎれば毒です」こんな話がよく聞こえてきます。

ここからが本題です。

皆さんは放射線ホルミシスという言葉をご存じでしょうか?多くの方はご存じいないと思いますので、上記のような刺激的な文章を挟みました。

ホルミシスとは?

ホルミシスとは?

ホルミシスとは大量で有害なものが、微量だと有益に作用することを言います。薬理学、毒性学などの分野で使われている現象です。毒物学では、少量の毒物は刺激的であるとされています。放射線に置き換えると放射線ホルミシス効果とは、高線量では有害な電離放射線が低線量では生物活性を刺激したり、また、以後の高線量照射に対しての抵抗性をもたらす適応応答を起こすという現象です。『ホルミシス現象』日本バイオアッセイ研究センター福島昭治より

今回、私は定年退職を迎え、放射線を学び直すことを目的として再学習を始めました。

SNSや書籍などの資料を視て、疑問を持った事の一つが低線量放射線被ばくに関するものでした。広島や長崎の被爆、自然放射線量の多いイランのラムサールやインドのケララの現状(人体への影響)や放射能泉を勉強するうちに放射線ホルミシス効果はあるのだろうか?と思うようになりました。

そしてこの学問に興味を持ちました。

私事ですが、放射線ホルミシス効果は以前から知っていましたが、病院の放射線取扱主任者として、スタッフの被ばく管理や患者さんへの被ばく低減を責務としていましたので、被ばく防止の観点から、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告が最も重要視されていました。

医療で用いる放射線の防護では、低線量放射線被曝でも人体にリスクはあると言う考えでした。その正反対の放射線ホルミシスは論外でした。

ニュースなどでは、あまり話題にならないのですが、本当に放射線によるホルミシス効果が確認されれば、いろいろな分野で変革が起こるかもしれません。(確実に変わります)それほど凄いことです。しかし放射線ホルミシス効果は、全く議論になりません。その理由は、放射線被ばくというナイーブな問題のためでしょう。

高線量・高線量率被曝と言えば、発がん、胎児奇形、不妊症、白内障など重大な病気の可能性があります。しかし現在議論されているのは低線量・低線量率被曝です。少ない放射線被ばく量を長い時間かけて被ばくした場合です。

何故、放射線イコール障害と悪いイメージが付いたかと言えば、X線や放射性核種が発見された直後から皮膚の炎症や脱毛などの障害がみられ、その障害がクローズアップされてホルミシスや適応応答は埋もれてしまいました。放射線ホルミシスや適応応答は1900年ころから認識されていました。

そのホルミシスや適応応答が福島原発事故調査以後より静かに議論されています。

適応応答とは?

適応応答とは、少しの放射線を事前に浴びておくと、その後の大線量を浴びたときに影響が軽減されるという仮説です。

実際にマウスを使っての実験において、適応応答は実証されていますが、事前照射から本照射までの間隔期間により効果に差があり複雑な様相を見せています。照射線量や間隔を開ける時間によって効果に大小があったり、効果がでない場合があります。

従来の放射線被曝に対する障害頻度や程度の障害曲線が、高線量被曝から外挿して推定しているため、低線量被曝でも障害が生じるとされていました。(具体的に言うと高線量被曝は、原爆による高線量率被ばくが含まれており、低線量・低線量率被曝には該当しない方法で障害曲線を決めている)

国際放射線防護委員会(ICRP)の考え方

年間およそ100 ミリシーベルトを下回る場合は、確率的影響の発生の増加は低い確率であるが無いと言えない。バックグラウンド線量を超えた放射線量の増加に比例すると仮定し、しきい値が無く、直線的な関係が成り立つと考える。低線量・低線量率での放射線防護の管理には、この考えが実用的で予防原則の観点からもふさわしいとしています。ICRPより

放射線ホルミシスを考える前に低線量放射線被ばく(100mSv程度の低線量被ばく)に関して科学者の意見は次の通りです。

低線量放射線に対する科学者の意見いろいろ

科学者Aの意見

放射線被ばくは、人体にとって、リスキーなもので、けして少量の放射線でも被ばくしてはならない。(LNT仮説:低放射線被ばくでもしきい値はなく線量に応じたリスクはある。)

科学者Bの意見

低線量放射線被ばく(100mSv~200mSv)の被ばくでの発症率が、通常の発症率より低く放射線によるものかどうか判断できない。(イラン ラムサール地方の自然放射線でも住民は健康)

科学者Cの意見

適応応答効果を提唱する。少ない放射線を事前に浴びておけば、高線量被曝に対して免疫作用ができる。(日本国内でマウスによる実験で証明された)

科学者Dの意見

放射線ホルミシス効果を提唱。低線量被ばくは、細胞や組織が活性化されて、免疫力が上がり病気に罹りにくい。ラジウム温泉やラドン温泉などがこの効果に因るものと考えられている。

ICRP勧告:LNTモデルが最も確からしい。しきい値なし直線仮説である。(自然発生レベルから被曝線量に比例してリスクが増加する。ICRPより

UNSCEAR 2000年報告 :いろいろなデータに照らすと、LNTモデルが最も合理的。 UNSCEARより

米国科学アカデミーが、2005年6月に低線量放射線被曝による発がんなどのリスクについて、「放射線被曝には、これ以下なら安全」と言える量はないと発表した。米国科学アカデミーより

フランス医学・科学アカデミー:2005年一定の線量より低い放射線被ばくでは、がん、白血病等は実際には生じず、低レベルの被曝の影響にはしきい値がある。ICRPやBEIRは、「昔の考え方にとらわれ て、最近の知見を無視している」フランス医学・科学アカデミーより

※BEIRとは、米国科学アカデミーの下部委員会のこと。

 

先程も言いましたが、医療放射線では下記説を遵守しています。

ICRPの説「100 ミリシーベルト未満の低線量の領域で、いくら被ばくが少なくても健康に影響がある」

上記読んで感じること。フランスと言えば、原子力を政策としている国であり、その国の報告を電力中央研究所HPに掲載している。誠に興味深い事です。

それでは今回は放射線ホルミシスについて記載します。

イランのラムサール地方のように年間自然放射線量が日本の20倍もある地域に暮らす人々に放射線の悪影響は出ていない。など多くの記事を見る機会がありました。

また三朝温泉のようなラジウム温泉やラドン温泉へ好んで行く人も見られます。多くの医師、大学の先生など放射線の良い影響を信じて疑わない方々が多くみえます。

アメリカの学者で、広島と長崎の原爆投下に対して、『細胞が活性化された』と暴言を吐く学者も居ました。言い訳に使われることは困りますが、免疫力がアップ出来るのであれば、放射線ホルミシスに期待するところは大きいですね❢

三朝温泉は放射能泉として、日本で1番2番を争う有名な温泉です。利用者からの評判もよくリピーターも多いようです。ラドンという放射線のホルミシス効果が人体に良い影響を与えているのか?私の習った教育(放射線被ばくは低線量でもリスクがある)とは正反対です。

当然なことでもあり、残念なことでもありますが、グーグルで検索してみると、ホルミシス効果を推奨しているのは、原子力発電関係のホームページと放射能泉施設のホームページばかりです。先ほども触れましたが、原子力政策を行っているフランスが放射線ホルミシス効果を唱えています。

反対に効果を疑問視していると感じる記事は、過去に大学の先生や医師が調査を行ってホルミシス効果が証明されたが、後の再調査で覆る記事が多く見受けられます。

放射線ホルミシス効果や低線量放射線被ばくリスクに関する問題には、利害関係が大きくかかわっているように感じます。UNSCEARや米国科学アカデミー、フランス医学・科学アカデミー、電力会社まで多くの利害関係の上で議論がなされているようです。

これでは、本当に低放射線被ばくでは、放射線ホルミシス効果があるのか?、適応応答はあるのか?リスクがあるのか?全く判りません。

まとめ・私見

【高線量、高線量率被曝】と【低線量、低線量率被曝】は別物と考えるべきです。

私見(勉強結果)ですが、低線量被曝にホルミシス効果や適応応答があるか?無いかの議論とは別にして、同じ被曝でも、高線量被曝低線量、低線量率被曝(100mSv以下)は、全く別物として考える必要がありそうです。(低線量放射線被曝では、リスクが無いと考える)低線量放射線被ばく

疫学調査が中心であるため、放射線ホルミシス効果の有無を見極めることは難しいことですが、自然放射線量の多い地域や放射能泉地域の調査を早急に行い、福島に住む人のためにも低線量放射線被曝の人体への影響のないことを証明してほしい。

医療人(診療放射線技師)としては現段階では、ICRPの考え方である『防護の観点からの安全側』としていますので納得するところもありますが、原発事故による移転を強いられている住民にとっては過剰な安全は不必要です。デメリットの生まれる対応は問題です。

私は診療放射線技師として医療現場でのスタンスは科学者AやICRPの意見と同様に放射線は少量であっても影響はあると考え、被ばくを少なくするよう最適な撮影条件で撮影を行います。

参考文献

  • [低線量放射線リスクの科学的基盤]平成16年3月:低線量放射線影響分科会
  • [低線量放射線被ばくは怖くない]エネルギー問題に発現する会
  • [あなたと患者のための放射線防護のQ&A]著者:草間朋子 医療科学社

最後に

放射線を良し悪しで言えば悪いものであると思いますが、使い方によっては良いものでもあります。医療では、欠かせない検査です。

放射線被ばくと言えばよいものではありませんが、放射線ホルミシスや適応応答という考えがあるのも事実です。

低線量・低線量率被ばく(100mSv以下)は現在の放射線被ばくの中で、体に影響ないとされている線量です。

世界の地域の中には自然放射線が多い地域もあります。その悪影響はないようです。

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柿田 彦
診療放射線技師として医療現場で培った技術と第1種放射線取扱主任者として得た知識をいかして皆さんに還元したい。また、 第ニの人生を満喫しながら、おっさんブロガーとして頑張っています。これからは『人生楽しく』をモットーに、wordpressの楽しさと使い方を初心者にお伝えしたいと考えています。