いろいろな放射線について説明します。
- 放射線全般について知りたい方
- 放射線の種類について知りたい方
- 放射線とはどんなものか知りたい方
- 放射線被ばくについて知りたい方
電磁波とは?
放射線を分類する前に、電磁波について説明します。
電磁波はエックス線やガンマ線以外に紫外線や可視光、赤外線からマイクロ波、短波、長波まで全ての電波が含まれます。
電磁波の仲間であるにもかかわらずどうして、これだけ性質が違う要因は何でしょうか?
上記の『電磁波の種類』において、ガンマ線がエックス線より波長が短く、周波数が高いような列びになっていますが、ガンマ線とエックス線の両方にエネルギーの大小はありません。発生の仕方が違うだけで同じものです。
それは、周波数・波長が関係します。周波数と波長は逆数の関係にあります。
周波数が大きくなれば、波長は短くなります。反対に周波数が小さくなれば、波長は長くなります。
周波数はヘルツで表します。電波の周波数は、300k~300Gヘルツですが、光は3T~3×10の15乗ヘルツ、エックス線はそれ以上です。
波長の長さで言いますと、電波の波長は、1km~1mm、光は10μm~10nm、エックス線はそれより短い波長です。周波数や波長の大小でこれだけ性質が違ってきます。
放射線の種類?
放射線には、いろんな分け方があります。
『電磁波と荷電粒子線』、『電磁放射線と粒子放射線』、『非電離放射線と電離放射線』電離放射線は『直接電離放射線と間接電離放射線』に分けられます。
エックス線、ガンマ線、電子線、ベータ線、アルファ線、中性子線、陽子線、紫外線、可視光、赤外線、マイクロ波、短波、長波を分類してみましょう。
【電磁波】 エックス線、ガンマ線、紫外線、可視光、赤外線、マイクロ波、短波、長波【荷電粒子】電子線、ベータ線、アルファ線、陽子線【その他】中性子線
【非電離放射線】紫外線、可視光、赤外線、マイクロ波【電離放射線】 エックス線、ガンマ線、中性子線、電子線、陽子線、ベータ線、アルファ線
【直接電離放射線】電子線、ベータ線、アルファ線、陽子線【間接電離放射線】エックス線、ガンマ線、中性子線
【粒子放射線】電子線、ベータ線、アルファ線、中性子線、陽子線【電磁放射線】エックス線、ガンマ線です。
『ウィキペディア(Wikipedia)』では、紫外線、可視光、赤外線を電磁放射線に含めていますが、電磁波であり放射線である電磁放射線は、上記のエックス線とガンマ線としました。
電磁波とは、放射線とは限りません。紫外線や可視光線、赤外線、電波なども含まれます。
荷電粒子線とは、電気(電荷)と重さを持った放射線のことを言います。中性子線は質量(重さ)を持ってはいますが電気(電荷)はありません。(レプトンとハドロンは除く)
直接電離放射線とは、放射線が電離を起こさせるものを言います。
間接電離放射線とは、放射線が電子を追い出して、追い出された電子が電離を起こすものを言います。
粒子放射線とは、重さを持った放射線のことを言います。
電磁放射線とは、波の性質をもった放射線のことを言います。
放射線とは、質量(重さ)を持った線と高いエネルギーを持った電磁波を総称して言います。【違う説を解くものもある】
放射線の発生方法?
それでは、発生の仕方について考えてみましょう。ガンマ線やベータ線、アルファ線、中性子線、陽子線は、放射性核種から放出されます。
放射性核種は、自然界にあるものから、人工的に作られたものまでいろいろあります。
エックス線や電子線、中性子線はエックス線管球やリニアック、加速器など人工的に作られたものから発生します。
そのほかにガンマ線、ベータ線、アルファ線、中性子線が物質に当たって(物質との相互作用で)エックス線、電子線、中性子線が発生します。
放射線の遮蔽について
次に遮蔽と人体に対する影響と被ばくについて考えてみましょう。
まず最初に遮蔽についてですが、エックス線とガンマ線は同じものと考えます。
電子線とベータは同じものと考えます。中性子線は、熱中性子と速中性子と分けて考える必要があります。
アルファ線は、紙1枚で遮蔽出来ます。ベータ線は、アルミや金属板で遮蔽出来ます。
ガンマ線は鉛や厚い鉄の板が必要です。(エネルギーの強さに関係する)
次に中性子線ですが、エネルギーの高い中性子線のことを速中性子線と呼びます。
エネルギーの低い中性子線を熱中性子線や低速中性子線と呼びます。
速中性子線のエネルギーを減らしたものが、熱中性子線や低速中性子線です。
速中性子線の遮蔽は難しく、まず最初に、原子量の小さな物質(水、パラフィン、ポリエチレン)でエネルギーを減らして、低速中性子線や熱中性子線に変えます。
その後コンクリートなどで遮蔽します。(水分の多いコンクリートで遮蔽します。)原子力発電の燃料棒を水に沈めているのは上記の遮蔽を行っています。
15MVリニアック治療では、エックス線と電子線で治療を行います。
照射時に少量の中性子線が発生しますので、開閉扉は鉄製の扉ですが、中にはポリエチレン遮蔽材が入れてあり中性子線とエックス線の遮蔽がなされます。
人体への被ばくついて
内部被ばくと外部被ばくに分けて考えます。
アルファ線の外部からの被ばくの遮蔽は簡単で、飛ぶ距離(飛程)が短いためあまり問題になりませんが、皮膚などに直接付着した場合は、洗い流すなど直ぐ取り除く必要があります。
付着した状態では、被ばくによる影響が大きくなります。(内部被ばくと同じで、皮膚に影響が出ます)
アルファ線で問題となるのは、内部被ばくです。紙1枚で遮蔽出来ますが、体内では被ばくの影響をもろに受けます。アルファ線は、ヘリウムの原子核で重さを持っています。
その全てのエネルギーを細胞に与えて消滅するまで人体(組織・細胞)にダメージを与えます!
体内へアルファ線が入るということは、アルファ線を放出する放射性物質が入ることを意味しますから、その放射性物質の物理学的半減期や生物学的半減期に依って大きな被ばくにつながります。体内被ばくした少女
半減期とは、よく使われる半減期とは、物理学的半減期のことで、放射性核種が崩壊して量が半分になるまでの時間を言います。その他に、生物学的半減期があります。
これは体内に取り込まれた放射性核種が体外へ排出され、体内の放射性核種が半分になるまでの時間をいいます。
体内に取り込まれた場合、生物学的半減と物理学的半減期の両半減期に注意が必要です。
次に中性子線被ばくが大きな問題です。速中性子が人体に与える影響は大です。
放射線の人体に対する影響を考慮して、放射線荷重係数(下記に記載)が決められています。
放射線の種類とエネルギーによっても放射性荷重係数が変わります。係数が大きいほど人体に対する影響も大です。
(放射線荷重係数や組織荷重係数などについては朱色文字をクリックしてください。)
放射線荷重係数は下記を開いてください。
放射線荷重係数放射線の人体に対する影響を基に決められています。
放射線荷重係数は、放射線の種類とエネルギーによって違います。特に中性子線は大きく違います。
放射線荷重係数 種類 エネルギー範囲 係数 エックス線、ガンマ線 1 電子 1 陽子 >2MeV 5 中性子線 >20MeV、<10keV 5 10~100keV、2~20MeV 10 100keV~2MeV 20 アルファ線 20 国際放射線防護委員会の1990年勧告(ICRP Publ.60)
エックス線・ガンマ線、電子線・ベータ線の放射線荷重係数は、1ですが、エックス線・ガンマ線、電子線・ベータ線を比べた場合、電子線・ベータ線がダメージは大きくなります。 放射線医学総合研究所ウェブサイトより引用
放射線治療ではベータ線やアルファ線を利用した内用治療が行われています。甲状腺治療や骨転移治療などがあります。
放射線と飛程について(中性子線は除く)
放射線にはいろいろな種類がありますが、電磁放射線(エックス線、ガンマ線)のように質量持たないもの、電荷をもたないものや質量も電荷も持つものがあります。
その放射線が消滅するまでに飛ぶ距離を飛程と言いますが、消滅するとはどういうことでしょうか?
その放射線が空気中であれば空気の構成元素とぶつかって消えていくことを言いますが、エックス線は質量と電荷(電気)をもたないため、ぶつかることが少なく飛程は長くなります。
その点ベータ線やアルファ線は飛程が短くなります。質量を持ち電気を帯びているためぶつかったり、引き寄せられたり反発したりするため、飛程が短くなります。
放射線が物質にエネルギーを吸い取られ消滅していくと考えられますが、言い方を替えれば、放射線が物質にエネルギーを与えながら消滅していきます。
放射線被ばくの観点からいえば、人体にダメージを与えながら消滅していきます。放射線治療の観点からいえば、がん細胞にダメージを与えながら消滅していきます。
ベータ線やアルファ線について言いますとエネルギーの高い間は原子(物質、細胞)とぶつかりながら進んでいきますが、エネルギーが弱くなってくると急激に外部に盗られる(与える)エネルギーが多くなります。
この飛程の集まり具合をブラッグ曲線(消滅寸前に大きなエネルギーを与える)と言います。
これを利用しているのが電子線(ベター線)治療やアルファ線治療です。腫瘍に大線量当てられるよう飛程を考え調整します。
エックス線、ガンマ線の特徴
光は物体によって遮られその先へは進めませんが、エックス線やガンマ線は物体を透過します。
大きなエネルギー(波長が短い、周波数が高い)を持ったエックス線やガンマ線はコンクリートや鉄などでも透過します。
透過と遮蔽はエネルギーの大小と遮蔽物の厚さが関係しますので、低いエネルギーであれば、遮蔽能力が小さいもので遮蔽できます。
反対に厚い空気層(何キロメートル)を作れば、空気でも遮蔽できます。
エックス線とガンマ線の違いは、発生の仕方が違います。
エックス線は原子の原子核外から発生するのに対して、ガンマ線は原子核から放出します。(ガンマ線は、発生ではなく放出が正しいでしょう)
エックス線には制動エックス線、特性エックス線(固有エックス線)などがあります。これは発生の仕方によって違います。
エックス線は、核分裂後の放射線と物質との相互作用でも発生します。
またガンマ線発生後の物質との相互作用でも発生しますがこれらは2次的な発生です。高校生実習体験者からの質問です。
ガンマ線は放射性物質以外からは発生しません。ガンマ線は核分裂や崩壊によって余分なエネルギーがガンマ線として放出されます。
医療の世界でよく使われる電磁放射線(エックス線、ガンマ線)でエックス線検査(骨密度、CT、TV、撮影など)や核医学検査でよく使われます。
また放射線治療の世界でも使われます。
ベータ線、電子線の特徴
ベータ線はガンマ線と同じ核分裂や崩壊によって放出されます。ベータ線にはベータ+線とベータ-線があります。電子線はエックス線と同様です。
ベータ線はガンマ線同様に放射性同位元素(放射性核種)のベータ崩壊や核分裂などで放出されます。
崩壊ではベータ-崩壊とベータ+崩壊がありますが、ベータ+線はすぐ電子と結びついて消滅します。
ベータ線はアルミやプラスチックなどで簡単に遮蔽できますが、原子核の近傍を通過する際にエックス線を放出しますので、遮蔽については、ベータ線とエックス線の遮蔽の両方を考える必要があります。
ベータ線も電子線も単一の放射線ではなく連続スペクトルの放射線です。
医療の世界でも使われますが、多くは放射線治療で使用されます。
べータ線や電子線は、エックス線やガンマ線に比べ飛ぶ距離(飛程)が短いため狙った病巣(臓器)以外への影響が少ないことことと、飛ぶ距離が少ないことを逆手にとった放射線治療が行われます。
(飛程が短いということは病巣や臓器に与える影響が大きくなりますが、その深部の正常組織への被ばくを減らすことが出来ます)